乾燥限界の意味~乾燥帯を見分ける目安とは?~
乾燥限界とは、乾燥気候と湿潤気候の境界を示す数値です。乾燥気候は樹林がない気候で、湿潤気候は樹林がある気候なので、乾燥限界値は「ある場所で樹林が育つのに必要な最低限の年降水量」を表します。例えば、ある地点における乾燥限界値をr、年降水量をRとすると、
・ある地域の年降水量R<乾燥限界値r→乾燥気候(樹林なし)
・ある地域の年降水量R≧乾燥限界値r→湿潤気候(樹林あり)
となります。詳しい計算は次の章で紹介しますが、乾燥限界値rの目安は約500mmです。言い換えると、年降水量が約500㎜あれば樹林が育つことができるということです。
乾燥限界の計算による判別方法
では、乾燥限界値の具体的な計算方法を紹介します。乾燥限界の判別の計算は次の3ステップです。
ステップ1:降水パターンを判別する
ステップ2:乾燥限界値rを計算する
ステップ3:年降水量Rと乾燥限界値Rを比較する
では、1つずつ見ていきます。
ステップ1:降水パターンを判別する
まず、調べたい地域の降水タイプを次の3つの中から判別します。
・s型:夏季に乾燥する(summerに乾燥)
・w型:冬季に乾燥する(winterに乾燥)
・f型:年中湿潤である
なぜ降水タイプを判別するのかというと、降水タイプによって乾燥限界値の計算式が変わってしまうからです。上記の3タイプを判別するためには次の計算方法を用います。
s型(夏季乾燥)の条件:(夏の最少雨月降水量×3)≦冬の最多雨月降水量
w型(冬季乾燥)の条件:(冬の最少雨月降水量×10)≦夏の最多雨月降水量
f型(年中湿潤)の条件:上記2つ以外
ステップ2:乾燥限界値rを算出する
次に、乾燥限界値rの計算をします。
年平均気温をt℃とすると、乾燥限界値rは
s型(夏季乾燥):r=20t
w型(冬季乾燥):r=20(t+14)
f型(年中湿潤):r=20(t+7)
となります。ここまでで乾燥限界値rの計算はおしまいです。
ステップ3:年降水量Rと乾燥限界値rを比較する
最後に、調べたい地域が乾燥気候か湿潤気候かを判別するために、年降水量Rと乾燥限界値rを比較します。
・年降水量R<乾燥限界値r→乾燥気候(樹林なし)
・年降水量R≧乾燥限界値r→湿潤気候(樹林あり)
ケッペンの気候区分の判別方法
乾燥気候と湿潤気候に分ける方法を紹介しましたが、これをケッペンの気候区分に当てはめると、
・年降水量R<乾燥限界値r→乾燥帯(B気候)
・年降水量R≧乾燥限界値r→その他の気候帯(A, C, D, E気候)
と分類されます。乾燥限界によって乾燥帯(B気候)はさらに分類できて、
・年降水量Rが乾燥限界値r/2未満→砂漠気候(BW)
・年降水量Rが乾燥限界値r/2以上r未満→ステップ気候(BS)
となります。ですがテストでこのような計算をする問題はほとんど出題されず、代わりに
・年降水量250㎜以下→砂漠気候(BW)
・年降水量250㎜~500㎜→ステップ気候(BS)
とするのが一般的です。
計算式の意味とは?
さて、乾燥限界値の計算をするときに、
年平均気温をt℃とすると、乾燥限界値rは
s型(夏季乾燥):r=20t
w型(冬季乾燥):r=20(t+14)
f型(年中湿潤):r=20(t+7)
となりますが、なぜでしょうか? 2つのポイントに着眼します。
着眼点1:乾燥限界値は年平均気温に比例する
上記の式を見ると、乾燥限界値は年平均気温に比例しています。つまり年平均気温が高い程、乾燥限界値も高くなるということです。言い換えると、年平均気温が高い地域で樹木が育つには、より多くの降水を必要とします。この理由は、気温が高いと蒸発する量も増えるため、湿潤であるには、より多くの降水が必要だからです。
着眼点2:w型(冬季乾燥)の定数項がある
式を見比べると、w型(冬季乾燥)は定数項(14)があるのでs型(夏季乾燥)より乾燥限界値が大きくなります。w型(冬季乾燥)は夏に降水量が多くなりますが、蒸発量も多いため、湿潤であるにはより多くの降水を必要とするからです。
乾燥限界の問題例
では、実際に乾燥限界の計算と気候区分の判別問題を解きます。
上の図はカイロの雨温図とハイサーグラフです。計算のステップを振り返ると
ステップ1:降水パターンを判別する
ステップ2:乾燥限界値rを計算する
ステップ3:年降水量Rと乾燥限界値Rを比較する
でした。今回はこのステップの通りに解いていきます。
ステップ1:降水パターンを判別する
上記の雨温図を見ると、夏に乾燥しているのでs型と予測できます。夏の最少雨月降水量は0㎜、冬の最多雨月降水量は5㎜なので、
(夏の最少雨月降水量×3)≦冬の最多雨月降水量
を満たし、s型と判別できます。
ステップ2:乾燥限界値rを計算する
s型の乾燥限界値の計算は、年平均気温をtとすると
r=20(t+14)
でした。ここで、例題の年平均気温は22.1℃ですので、乾燥限界値rは
r=20(22.1+14)=722[mm]
となります。
ステップ3:年降水量Rと乾燥限界値Rを比較する
年降水量Rは例題より18㎜、乾燥限界値rは計算より722㎜で、
・年降水量R<乾燥限界値r→乾燥気候(樹林なし)
・年降水量R≧乾燥限界値r→湿潤気候(樹林あり)
より、乾燥気候(乾燥帯(B気候))と判別できます。
まとめ
ステップ1:降水パターンを判別する
・s型(夏季乾燥)の条件:(夏の最少雨月降水量×3)≦冬の最多雨月降水量
・w型(冬季乾燥)の条件:(冬の最少雨月降水量×10)≦夏の最多雨月降水量
・f型(年中湿潤)の条件:上記2つ以外
ステップ2:乾燥限界値rを計算する
年平均気温をt℃とすると、乾燥限界値rは
・s型(夏季乾燥):r=20t
・w型(冬季乾燥):r=20(t+14)
・f型(年中湿潤):r=20(t+7)
ステップ3:年降水量Rと乾燥限界値Rを比較する
・年降水量R<乾燥限界値r→乾燥気候(樹林なし)
・年降水量R≧乾燥限界値r→湿潤気候(樹林あり)