工業立地について具体例も交えながら解説

工業

管理人
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この記事では、最初に工業においてどうすれば利益を最大化できるかということに答えを見つけたのはウェーバーという人物です。ウェーバーの工業立地論とともに、「工業の立地指向」についてわかりやすく詳しく解説します。

工業立地論とは?

工業とは原材料を加工して製品を作ることです。原材料を加工するのは工場で行います。ではどのような場所に工場を作れば、コストを抑えることができるでしょうか?これを考えるのが工業立地論です。

ウェーバーの工業立地論とは?

ウェーバーはこの、「どのような場所に工場を作れば、コストを抑えることができるか?」という問いに対して、輸送費・労働費を最小限にすることが大切だと結論付けました。また工業の集積についても考察しました。現在、工場は様々な要因によって、立地しています。ではどのような要因があるのでしょうか?一緒にみていきましょう。

原料指向型工業

原料や製品の輸送条件に着目したとき、製品よりも、原料のほうが重量が大きい場合に、原料の産地付近に工場を建設し、そこで生産した製品を消費地まで運んだほうが輸送費が安くなります。中でも生産する費用に対する輸送費の割合が大きな工業ほど、この恩恵を受けやすくなります。例えば、セメント工業、鉄鋼業、製紙・パルプ工業、製糖工業、酪農品などがあります。

鉄鋼業を例に見てみましょう。鉄鋼業は、原料の鉄鉱石と石炭と石灰石から銑鉄を作ります。ここで1トンの銑鉄を作るのには鉄鉱石1.5トン、石炭1トン、石灰石0.3トンが必要とされます。ここで、原料の鉄鉱石、石炭、石灰石合わせて2.8トンを輸送するより、製品の銑鉄1トンを輸送したほうが輸送費が安く済みます。このため鉄鋼業は炭田付近(原料産地付近)に立地していました。現在の日本では、炭田はほとんど閉鎖されているため、石炭は海外から船で輸送しています。このため鉄鋼業は臨海部に立地しています。

日本の主な鉄鋼工場

地理院地図を加工して作成

また、鉄鉱石や石炭などどこでも手に入らない原料のことを局地原料といいます。局地原料の中でも石炭や鉄鉱石のような原料よりも製品の重量が軽くなるものを重量減損原料といいます。

市場指向型工業(消費地指向型工業)

原料や製品の輸送条件に着目したとき、原料よりも製品の重量が大きい場合に、消費地近くに工場を建設し、その工場まで、軽い原料を輸送したほうが輸送費が安く済みます。中でも、原料に水など重く、どこでも手に入るようなものを使う場合、この恩恵を受けやすくなります。例えば、ビール工業や加工乳品などです。

ビール工業を例に見てみましょう。ビールの原材料は、水、オオムギ、ホップなどです。ここで、水はどこでも手に入れることができるので、水以外の原料の大麦とホップだけを工場に輸送し、水は工場付近のものを使うことによって、輸送費を安くすることができます。

日本の主なビール工場

地理院地図を加工して作成

ですが、市場指向型工業(消費地指向型工業)は、輸送条件だけによるものではありません。市場の情報を必要とする工業や、流行を重視する工業も、市場(消費地)の近くに工場を有します。例えば、出版・印刷業や、服飾業などです。

出版・印刷業を例に見てみましょう。東京や大阪のように経済の中心である大都市には、世界中から多くの情報が集まり、また、発信されています。出版・印刷業である、新聞や雑誌などは集めた情報を瞬時に印刷して商品にしなければなりません。そのため、すぐに消費地に届けられるように印刷工場は市場(消費地)付近に立地しています。

労働力指向型工業

今までは、原料や製品の輸送条件に着目し、原料と製品の重量を比較することで工場の立地を考えてきました。しかし、原料と作られた製品で、その重量がほとんど変化しない場合はどのような立地になるのでしょうか?輸送による効果をあまり受けないので、工場での製造に必要な労働費を安く済むような場所に工場があればよいのです。例えば、電気機器や自動車工業があります。また、原料と製品の重量があまり変化しないものを純粋原料といいます。

労働費は安ければよいという問題ではありません。例えば、熟練の職人の技術が必要な、高級服飾品、高級時計、高い開発力と加工技術力を有する町工場、などは、労働費が高くても先進国の都市部にあることがあります。

臨海指向型工業(港湾指向型工業)

資源に乏しい日本では現在、原料の多くを外国からの輸入に頼っています。石油や鉄鉱石などの原料は、その多くが船で海上輸送されるため、それらを扱う工場は臨海部に立地したほうが輸送費が安く済みます。さらに工場で生産された製品を市場(消費地)に運ぶ際の輸送費も考えなくてはいけません。たとえは、鉄鋼業や石油精製業などがあります。これらは原材料の輸入の利便性と市場(消費地)に近いことを条件として立地を考えると、日本では、太平洋ベルトに多く立地しています。

日本の主な石油化学コンビナート

地理院地図を加工して作成

臨空指向型工業

電子部品などは、軽量小型で、付加価値が高く、生産費に占める輸送費の割合は小さいです。また、電子部品は、製品開発、シリコンなどの加工、組み立てなど分業がおこなわれています。このため、小さい輸送費を気にするよりも、製品を素早く輸送することによるメリットのほうが大きいので、空港の周辺に立地します。生産費に占める輸送費の割合は小さいため空港以外にも、高速道路を利用した輸送も行われます。このため高速道路のインターチェンジ付近にも工場が立地します。

集積指向型工業

輸送や労働以外にも、分業や取引関係を重視することで、生産費を抑えることがあります。例えば自動車工業です。自動車を作るためには、ガラス、タイヤ、鋼板、電子部品など多くの部品が必要です。これらの部品の多くは自動車メーカーが作っているのではなく、下請け会社の下請け工場で生産されています。

ここで、自動車組み立て工場や部品を作る下請工場が、一つの場所に集まる(集積する)と、輸送費を削減することができます。また、自動車工業では、ジャストインタイム方式という、在庫を減らし、必要なものを必要な時に必要な分だけ届けるシステムがとられることがあります。このような方式では、自動車組み立て工場と部品の下請け工場に距離があると成り立ちません。さらに、自動車メーカーと部品メーカーが共同開発する際にも、工場と開発拠点が集積していることがメリットになります。

日本の主な自動車工場

地理院地図を加工して作成

このような町は、トヨタ自動車の愛知県豊田市や、本田技研工業の三重県鈴鹿市などにみられます。また1つの企業を中心にその関連企業が集積した街を企業城下町といいます。

電力指向型工業

上記の輸送費指向、労働費指向、集積指向に加えて、いくつか特殊な例外があります。その1つが電力指向型工業の、アルミニウム工業です。アルミニウム1トンを作るには、原料のボーキサイトが4トン必要です。ですから、本来は原料指向型工業に分類されるはずです。しかし、アルミニウムの製造には、生産コストに占める、製造に必要な電力の費用の割合が高くなっています。電力が安く手に入る、中国、ロシア、カナダ、アラブ首長国連邦、オーストラリアなどで生産されています。これらの国は、石炭や石油が採掘され電気代が安い、または、豊富な水源により総発電量に占める水力発電の割合が多く、電気代が安い国です。

用水指向型工業

工場で大量の水を必要とする工業では、用水が得られる場所に工場が立地します。例えば、液晶パネル工場、製紙・パルプ工業、染色工業などです。

気候指向型工業

タンカーやコンテナ船など大きな船舶を作る造船業では、船舶を作る作業の一部はドックと呼ばれる屋外で行います。この時、天気が晴れているほうが良いため、天候指向型工業と分類されることがあります。

また、その土地の気候を生かした伝統工芸品を作る工業も気候指向型工業に分類されることがあります。

まとめ

工場の立地は輸送、労働、集積の3つの観点から考察することができます。1つの工業が複数の指向型になることもあります。

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