古くから人類は、未踏の地へと移動を繰り返してきましたが、近年は経済や科学技術の進歩によって、人々の移動は活発になりました。また絶えない紛争や自然災害や県境の変化によって移住を余儀なくされる人々もいます。今回は、移民問題と国際人口移動について解説します。
人口移動の種類
人口移動の種類は主に3つに分類できます。
1つ目は、永久的移動です。これは移住先にずっと住み続けることを前提とした移動です。例えば、ヨーロッパからアメリカに移動した移民や、世界各地からパレスチナに集まったユダヤ人などです。
2つ目は、一時的移動です。移動先での定住は考えず、一定期間の後、自分の出身地に変えるものです。例えば、インドやパキスタンなどの南アジアから、サウジアラビアや、アラブ首長国連邦などの中東諸国への出稼ぎ労働者がこれに該当します。
3つ目は、難民です。難民の移動理由には主に2つの要因があります。1つ目は、紛争によるものです。例えばシリア難民などです。もう1つは、環境の変化によるものです。例えば、砂漠化が進行している地域に住む人や、日本でも、東日本大震災で、移住を余儀なくされた人がこれに該当します。
主にこの3つの人口移動の変化を下記に詳しく説明します。
世界の人口移動の変化-ヨーロッパから新大陸へ
新大陸とは、大航海時代にヨーロッパ人が新しく発見した、南北アメリカ大陸、オーストラリア大陸、ニュージーランドなどです。現在のアメリカ合衆国には、1620年、イギリスから、イギリスの弾圧を恐れたピューリタン(清教徒)たちが最初に移住してきました。
その後も、ヨーロッパからは、20世紀初頭まで移住が進みました。この中には、ジャガイモの疫病で飢饉に苦しんだに苦しめられたアイルランド人などもいましたが、現在のアメリカ人は、ドイツ系が一番多くなっています。
カナダのケベック州には、フランスからの移民が多く、現在のケベック州では、フランス語だけが公用語となっていて、カナダは英語とフランス語の二カ国語が公用語となっています。
また16世紀の同じころ、南ヨーロッパからは、南アメリカへの移住がおこなわれました。南アメリカに移住したヨーロッパの人々は、現地の先住民や、移住させられた黒人との混血が進み、これらの混血の人は、メスチソやムラートと呼ばれています。
18世紀以降は、イギリスの流刑地として、オーストラリアへの移住が進みました。その後、金鉱が見つかったことのより、一攫千金を求めて大勢の人が移住してきました。
一方ニュージーランドでは、捕鯨目的で入植が進みました。
世界の人口移動の変化-アフリカから世界へ
アフリカのギニア湾岸から、主に新大陸のプランテーション農園の労働力とするために、多くのアフリカ人奴隷たちが強制的に移住させられました。
その数は1500万人にも上り、現在でも、アメリカ合衆国南部、ハイチ、ジャマイカ、コロンビアなどでは、黒人が多く暮らしています。
世界の人口移動の変化-日本から世界へ
実は19世紀以降、日本人も海外へ移住していました。その移住先は、ハワイやブラジルです。ハワイでは、サトウキビ畑や製糖工場で労働力として役割を果たしました。
不足する労働力を補うために多くの国から移民が来ていましたが、当時のサトウキビ畑で働く人の70%を日本人移民が占めていました。
ブラジルに移住した日本人は、現地のコーヒー農園などで働きました。現在でも100万人以上の日系人がブラジルで暮らしています。
またペルーに移住し、砂糖や綿花農園で働いていた日本人移民もいます。その子孫には、ペルーの大統領になったアルベルト・フジモリ氏がいます。
世界の人口移動の変化-世界からパレスチナへ
自分たちの国を持たず、ヨーロッパで迫害を受けていたユダヤ人たちは、パレスチナに自分たちの国家を建国するというシオニズム運動が盛んになりました。
これによって、世界中に散らばっていたユダヤ人たちが、パレスチナに移住を進めました。したし、もともと住んでいたアラブ人との対立が深まり、中東戦争などの紛争が起きています。
世界の人口移動の変化-中国から世界へ
19世紀になると、中国南部(福建省、広東省など)では、丘陵地が多く工作できる土地が少ないことや、商業化が進んだことで人口が増え多くの余剰労働力が生まれました。この中で、主に東南アジアに移住する人が増えました。
移住した先では、身分が低く、労働条件が厳しかったため、「苦人(くーりー)」と呼ばれていました。しかし、中国人のビジネス意識の高さが功を生み、今では経済的に豊かになっている人が多数です。
華僑、華人の違いは以下の通りです。
- 華僑:海外に移住した中国国籍を持ち、中国語を話す人々
- 華人:中国からの移民の子孫で現地の国籍を取得している人々
世界の人口移動の変化-インドから世界へ
インド人の移住は主に3つに分けられます。
まず1つ目は、インドがイギリスの植民地時代だったときに、インドからほかのイギリス領に国に移動したものです。マレーシア、ケニア、フィジーなどに移住し、現地では、プランテーション農園の労働者として、従事しました。
2つ目は、中東地域への移住です。中東地域で石油が採掘されるようになると、現地では労働力不足が起きました。そこで、安い労働力としてインド人をはじめとする南アジアの人々が中東に移住しました。
3つ目は、インド人の高い数学能力とIT知識を背景にした、アメリカへの知識人の移住です。これはインドの公用語に英語が用いられていて、移住に関して語学の壁がないことも一つの要因です。
世界の人口移動の変化-トルコからドイツへ
1960年代から第二次世界大戦後の経済復興を遂げていた、当時の西ドイツでは、人手不足が起きました。そこでその不足分を補うために、トルコ、旧ユーゴスラビア、イタリア、ギリシャなどから移民を受け入れ始めました。これらの外国人労働者のことをガストアルバイター(ドイツ語で客人労働者)といいます。
時代の流れの中で、ドイツに移住する移民の出身国に変化がみられました。問罪に分断されていたドイツが統一したことで、東ドイツからの労働者も加わり、さらに旧東側諸国の、ロシアやルーマニアからも移住者が増えました。
しかし、ドイツ国内の景気が悪くなると、ドイツ人の職がガストアルバイターたちによって奪われたという考えが出てくるようになり、現在のドイツでは移民が深刻な課題となっています。
世界の人口移動の変化-旧植民地からフランス・イギリス・スペインへ
フランス、イギリス、スペインでは、それらの国の旧植民地から、より高い賃金を求めて、移住者が増えています。フランスにはアルジェリア、モロッコ、チュニジアなどから、イギリスにはインド、パキスタン、アイルランドなどから、スペインにはエクアドル、コロンビアなどの南米などからです。これらの国と、移住先の公用語が同じであることが、移住の障壁を減らしています。
世界の人口移動の変化-ラテンアメリカからアメリカ合衆国へ
アメリカ合衆国と距離的に近い中南米やカリブ海の諸国からアメリカ合衆国に、近年多くの人々が移住してきています。
ラテンアメリカの多くの国の公用語はスペイン語なのですが、スペイン語を話す移民のことをヒスパニックと呼びます。
現在、アメリカの人種構成のうち、16%をヒスパニックが占め、これは黒人(13%)よりも多く、非ヒスパニックの白人(63%)に次ぎ二番目の多さとなっています。
世界の人口移動の変化-南米から日本へ
日本では、1980年代後半のバブル景気による人手不足を背景に、入国管理法の改正が行われ、海外の日系人の日本への移住が許可されました。
このため、日系人が多く済むブラジルなどの南米諸国から多くの日系人が移住してきました。これらの移住者は主に、自動車産業などで労働しました。
このため日系ブラジル人は、自動車工場のある、群馬県、静岡県、愛知県などに多く居住しています。
難民の移動
紛争や、環境の変化などで、本来住んでいた居住地に住むことができず、避難しなければならなくなった人々のことを難民といいます。
例えば、内戦が激化したシリアでは、シリア難民が、トルコやドイツへ移住しました。
また、アフガニスタンでは、旧ソ連の侵攻、タリバン政権の台頭、アメリカ合衆国の侵攻などにより、多くの国民が難民化しました。これらの難民は、主に周辺諸国に避難しました。
移民・難民受け入れのメリット・デメリットは?
移民・難民の受け入れのメリットは、まず、労働力の確保です。先進国などでは、賃金の低い仕事に労働者が集まらず、労働力不足が起きています。しかし、移民・難民は、低い賃金でも働く傾向にあるので、労働力不足を解消できます。また、移民・難民を受け入れることによって、そこに新たな産業が生まれ、雇用を生み出すとともに、経済成長の手助けをします。また、日本では、少子高齢化が進んでいるため、総人口に占める労働者の割合が低く、社会保障制度の維持が難しくなっています。そこで、移民・難民を受け入れることによって、労働者人口を増やし、社会保障の維持体制を強固にすることができます。
しかし、移民・難民を受け入れは、メリットだけではありません。実際、移民・難民を多数受け入れている国では、様々な問題も発生しています。例えば、治安の悪化です。外国人が移住してくることによって、犯罪件数が増加したり、宗教対立が起きたりする場合があります。また、文化や価値観の違いなどから、外国人と現地の人との間に対立が生じることがあります。
このように移民・難民の受け入れには課題がありますが、移民・難民の受け入れによって経済が成長することも事実です。移民・難民との共生は難しいことですが、それぞれの民族がそれぞれのコミュニティーを形成して、それが相乗効果を生むことで、社会の利益になる可能性もあります。
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